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定時で帰ることの意味を見つめなおし、定時で帰れるように努力する
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会社にはさまざまな人がいて、さまざまな考えを持つ人がいます。
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- 「残業をして、有休もとらず仕事をすることが責任」
- 「仕事は死ぬ気でやって無理をしてでもやるべき」
- 「無謀な計画でも、残業や休日返上でやれば終わるからみんなで頑張ろう」
- 「産休、育休を取るのは、ほかの人にとって迷惑でしかない」
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昨今、「働き方」に焦点が当たりはじめ、少しずつ見直されてきているものの、このような考え方を持つ人は今でも少なからずいるのが現実です。
このような考えを持つ人が職場にいて、つらい思いをしている人もいるし、「それが普通だ」と考える人もいます。
ただ、「その考えが正しいのか」「何か変える必要はないのか」と本気で考えたことのある人はどれくらいいるのでしょうか。
本書はフィクション小説でありながら、「働き方について見直すきっかけ」を与えてくれる本です。
本のあらすじ
本書は、「どんなに忙しくても定時に帰る」ということを自身に課している、32歳の女性が主人公のフィクション小説である。
ただ、この主人公は甘えや無責任で毎日定時に帰っているわけではない。
始業から定時までの「限られた時間」の中で、自身に与えられた仕事を終わらせることに工夫と努力をしている。
しかし、そんな主人公の考え方や行動を、理解したり賛同してくれる人は少なく、「毎日定時に帰って楽している」「残業して仕事をするべき」などと考える同僚が多くいる。
加えて、主人公と真逆の考え方を持つ「仕事がすべて」の元彼氏や、思いつきや無責任な行動で周りにマイナスしか与えない上司がいて、主人公は頭を抱える日々を送っている。
そんな周りの人たちと時には対立しながらも、正論だけではなく相手の気持ちや立場に寄り添いながら、本心でぶつかり理解し合っていく、というお話。
定時に帰りたくない人たち
本書には個性的な人々が登場する。
おもに主人公と共に働く同僚たちだが、主人公の「定時に帰宅する」という考えに理解ができない、反発をする、という人々である。
ただ、そんな彼らにも定時に帰りたくない理由がある。
「真面目なところが自分の取り柄なので、有休もとらず、毎日残業して働く」
「自分は女だから、出世をするために育休返上、残業をしてでも認めてもらう」
「仕事ができないことが自分でわかっているから、みんながいない時間に仕事をするために残業をする」
みんなさまざまな理由があり、各々の過去や境遇から残業をしている。
それぞれの残業をする理由を読み解くのも本書の面白いところである。
相手の気持ちに寄り添い、相手を変えていくストーリー
「有休は取るな」
「風邪だとしても会社は休むな」
思わず聞き返してしまいそうな、人によっては喧嘩にでもなりそうな一言だが、こんなことを悪気もなく本気で言ってくる同僚が登場する。
ただ本書は、理不尽でズレたことを言ってくる同僚を論破して打ち負かして定時帰りを勝ち取る、といったストーリーではない。
正論で戦うのではなく、相手の考えや気持ちを理解しようと努力し、寄り添い、納得させるための工夫をもって、その人自身を変えていこうとする。
こういった主人公の姿勢から学ぶものも多い。
「正論だけでは変わらないこともあるし、本当の意味で解決できない」ということ。
ましてや相手に悪気がなく、自分が正しいと思っている場合は、その場は意見をねじ伏せることができても、その人自身は何も変わらない。
こうった点を重視している内容なので、『半沢直樹』シリーズのような爽快感や痛快感を得られる本ではない。
本書を読んで得られたこと
本書は、魅力的な主人公と日々起こる問題が読みやすく書かれています。
ただ、本書は物語が面白いだけではなく、得られることが多くありました。
私が読んで得られたことをまとめてみました。
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- 定時で帰ることの意味とは
- 「仕事を死ぬ気でやる」 = 自身の犠牲?
- 「心にゆとりをもたせる」ということ
- 定時で帰るには「生産性」を高める努力が必要
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①定時で帰ることの意味とは
本書の主人公が、自身の行動で示したかったのは「定時で帰ることの意味」である。
主人公は毎日定時に帰宅し、会社の近くの中華料理店でビールを飲むことを楽しみにしており、それが日課になっている。
主人公自身もこの日課を楽しみに、定時に帰宅している。
これだけを見ると、「主人公は楽をしたいだけ」「それだけのことで、定時に帰るの?」と思う方もいるかもしれない。
ただ、「仕事後の時間で、本人にとって重要だと思えることをする」生活を、意識して作っているのである。
「定時で帰ること」は「楽をすること」ではない。
「充実した生活」は、仕事の時間だけでは作り出すことができない。
休息や趣味の時間を持たなければ、いつか身体や精神が壊れてしまう。
主人公は、「定時に帰宅して、仕事後の時間を持つこと重要さ」を、自身の行動で示しているのだ。
「定時で仕事を終えて、大事な人と会って、ゆっくり休んで、美味しいものを食べて……。そういう生活をみんなが送れるようにしたいと思った。
大人になって、会社に入ったら、きっとそうしようって思ってた。
夢とかじゃないの。
……できるはずだって思いこんでた」
P.180-181
②「仕事を死ぬ気でやる」 = 自身の犠牲?
「仕事は死ぬ気でやるべき」
この言葉について私は否定する気持ちはない。
「自分を甘やかすことなく、どん欲に仕事をこなして成長する」と私は解釈している。
ただ、仕事は自身の犠牲の上に成り立つものではないと思う。
時には無理をしなくてはいけないこともあるし、つらくても歯を食いしばって前に進まなくてはいけない時もある。
しかし、それは一時的なものであるべきで、異例の事態だということ認識しておくべきだと思う。
ましてや、会社のために自信を犠牲にすることは間違った考えである。
「ー会社のために自分があるんじゃない、自分のために会社があるんです」
(中略)
「つまり、自分のためにならないと思ったら、こんな会社、いつでも辞めていいってことです。会社のために死ぬなんて、馬鹿な考えは起こさないでください」
P.323
③「心にゆとりをもたせる」ということ
主人公は、「自身の心をゆとりをもたせること」に長けている。
どこまでが自分の限界で、心や身体に休暇を与えないと自身が壊れてしまう、ということをちゃんと理解し、そしてリカバリーができる人である。
休暇を取る意味もちゃんと理解している。
有休は必要だ。
誰にだって体や心のバランスが崩れる日がある。
心身の悲鳴を無視して働けば、(中略)永遠の休みをとることになる
P.45
物語の途中で、誰が考えてもおかしいことがまかり通ってしまい、苦悩する主人公がリフレッシュのために思い付きでロマンスカーに飛び乗り、温泉に行きおいしい食事をする、というシーンが印象的だ。
主人公は、自分の心に安らぎを与えるために、意識して行動した。
私たちも、ただただ休みの時間を無計画に過ごすのではなく、「何をしたら自身に安らぎを与えられるのか」「心に平安をもたせられるのか」ということを考えた上で休暇を取りたいものだ。
考えた結果、例えば「一日中寝ている」「家でゴロゴロしている」ことであっても、それが自身にとって一番の安らぎであるなら、それはそれでいいと思う。
④定時で帰るには「生産性」を高める努力が必要
とはいえ、仕事を定時内に終わらせることは実は難しい。
残業をしたり、休日出社をして仕事を終わらせることのほうが、実は楽だったりする。
ただ、それはただの甘えで、同時に自分自身を苦しめることになる。
定時内に仕事を終わらせる努力と改善をするべきなのである。
では、定時内に仕事を終わらせるにはどういった努力をすべきなのか。
一つの手段として「自身の生産性を知り、そして生産性を高めていくこと」がある。
主人公も「定時に帰るためには、生産性を上げることが重要」ということに早い段階から気づき、「制限時間を設ける」ことで生産性の向上させてきた。
ただ、この考えは全員が受け入れてくれるものではなかった。
個人の生産性、つまり「仕事のできる、できない」を数字で表され、ほかの人に知られることは恥ずかしい、という人が出てきたのである。
確かに、「自身の生産性を知る」のは、好き好んでやりたいものではない。
ましてや他人に自身の生産性を知られることは恥ずかしく、そして怖い。
それでも生産性を高めるには、向き合わなくてはいけないことである。
さいごに
会社に属して働く方には、どなたにもぜひ読んでもらいたいと思える本でした。
主人公と同じように定時に帰宅できている人や「定時に帰宅すべき」と思っている人、逆に「定時に帰るなんて甘えだ」「残業してもっと仕事を頑張るべき」と思っている人、どちらの考えの人にも読んでもらいたい。
自身とは違う考えを持っている人がいること、それには様々な理由や背景があることを考えるきっかけになると思います。
そのうえで「定時に帰ること」の意味を今一度見直してみたいものです。